スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

心臓血管外科医の憂鬱

2009年頃から、海外の心臓血管外科系学会でのトピックスのひとつが
「人工心肺を用いずに、心臓を動かしたままで行う大動脈弁置換術
=Transcatheter aortic-valve implantation(略してTAVI:“タビ”)」です。

サイトにも記述したように、
昨年相次いでその臨床結果を報告する論文が掲載されました。
カナダ、ドイツに引き続きアメリカでは昨年10月
「The New England journal of medicine」に論文が発表されました。

いずれも、リスクが高い(従来の手術では危険性が高い)患者さんに有用であったというものです。

日本では昨年秋にようやく治験が始まり、現在3施設でそれが行われています。
「治験」についてはこちらを参照(Wikipediaは主に新薬に関する記述)

一般の病院が使用出来るのは、
この「治験」が終わり、データを厚労省がチェックし、承認を得るのを待つ。
で、担当学会が使用基準を作成する。
で、各病院が施設申請を行う。
で、学会の承認を待つ。
というプロセスを踏むことになります。

現在、この学会以後の作業はかなり迅速になっていると理解しています。
問題は厚労省の承認です。

今回の「TAVI:タビ」が迅速に承認される可能性はもちろんありますが、
現時点でアメリカ、カナダ、ドイツにはるかに遅れを取っている状況で、
これから参入しようという施設が実際に手術可能になるのは早くても今年の終わり頃で、
これでは日本が先進国で先端医療を行っているのだと誇れるものではありません。

プロセスを省略しリスク分散を防ぐために、
行える施設を限定するという方法があります。
例えば心臓移植のように日本国内で7施設位に限定するという方法です。
これは一理ありますが、心臓移植のように稀少な手術(国内年間10~20例ぐらい)では有意義ですが、
「TAVI:タビ」はおそらく普通に年間300例位が対象となる可能性があり、
日本の医療の「利便性」という特長を生かすにはいささか不便な対応です。


この話は同様に「埋め込み型補助人工心臓」にも言えることです。

少し、静観することにします。
スポンサーサイト

日本の医療はどうだったか?

前回からの続き

では日本の医療が世界の中でどのくらいのレベルにあるのでしょうか?

これはハード、ソフト含めた多様な側面があるため一概に論ずるのは難しいことです。

例えば、医療政策の側面を見れば、
米国の無保険者が5000万人で(日本は40万人くらいというデータあり)、
政治哲学の根本理念の違いはともかく、圧倒的「利便性」が日本の医療にはあります。

一方医学研究に関してはどうでしょうか?
臨床医学系の権威ある雑誌「The New England journal of medicine」を調べてみました。
この雑誌に2010年に掲載された論文数を国別で比較すると、
(「PubMed」の検索精度が高いと過程して)

米国448
イギリス34
オランダ 19
ドイツ13
オーストラリア12
中国12
フランス11
日本6(内、1つは筆頭が韓国人と思われる)
韓国6

と、アメリカ圧勝です。
と同時に日本の「内向き指向」も反映しています。驚異はやはり中国ですね。
アジアで唯一ノーベル医学生理学賞を輩出したのは日本ですが、
すでに23年も以前の話で、いつまでもそれに縋り付いているわけにはいきません。
是非、利根川進氏に次の日本人ノーベル医学生理学賞者を見届けていただきたいと思います。


では臨床的にはどうでしょうか?

医療レベルの指標としてある程度参考になる統計にWHOの新生児死亡率があります

これによると、2008年新生児死亡率(最小0.1%単位)は

サンマリノ(人口3万) 0
日本、シンガポール、アイスランド、ルクセンブルグ 0.1
フランス、韓国、ベルギー、フィンランド、他 0.2
イギリス、ドイツ、オーストラリア、他 0.3
米国0.4
ロシア0.6
中国 1.1

日本は先進国で最小レベルです。

たったこれだけのデータから推測するのは憚れますが、
実際に医療現場に身を置く人間からすると、
日本の現在の医療は
「利便性に優れた静的な安全性はあるが、動的な指向に欠ける」
という印象で、データとの整合性はあります。

2004年に必修化された新臨床研修制度、
またそれと前後して生じたいくつかの医療事故とそれに対する司直やメディアの対応が引き金となり、
いわゆる「医療崩壊」の不安が広がりましたが、
まさにそれは日本が誇っていた
「利便性に優れた静的な安全性」神話が崩れ始めたこと意味しています。
幸いにも一部の医療関係者の積極的な働きにより、
来年度からの医学部定員の増員、臨床研修制度の見直しなどが実現し、
現時点では食い止められていると私は理解しています。
あるいは2008年以降、経済的疲弊の加速により目立たなくなっただけなのかも知れませんが…。

次回は心臓血管外科に絞ってお話します。

2010を振り返って

あけましておめでとうございます。

2011年が始まりまりた。

昨年末、TBSの「報道特集」で「ジャパンクライシス」と題して、
日本が国際社会の中でその存在感を急速に失っている現状を伝える番組が放映されていました。
TBSのHPから引用→日本の国を覆っている空気を直視したとき、
「内向き」という言葉が即座に浮かぶ。
今年最後の放送では、報道特集スペシャル版。
日本再生に必要なものは何か。
取材からほのかに見えてくるキーワードは、
「挑戦」、「好奇心」、「過剰技術」そして「危機感」。
何よりもまず、日本の置かれている現状を直視することから再生をめざそう。
そんなメッセージを込めた今年最後の放送を送る。
―引用終わり

さて、この報道にある日本の経済的凋落や存在感の低下は、
政治や経済を俯瞰出来る日本人は百も承知していることです。

現にGDPが中国に抜かれた事を(その本質的な意味はともかく)
憂えていない国民はいないでしょう。
もちろんその現実を受け止めずに、
「内向き指向」となる留学しない若者に対するメッセージとしては意義がある報道かもしれないし、
あるいは全く馬耳東風の可能性もあります。

ただその衰退の一方で、
昨年は日本人がノーベル賞を受賞し、
栄誉ある国際音楽賞を受賞し、
世界の舞台で多くのアスリートが活躍したことも誇りに思うべきです。

確かに、どこをどう贔屓目に見ても、
昨年の政治運営に問題がなかったという事は到底出来ません。
ただ、我々政治家でも政治評論家でもない「その他」の国民は
「政治が悪かった」と文句を放つだけの思考停止状態になってはいけません。

まずは自分の関わっている業界の発展を末端から地道に後押ししていくべきだと思います。


続く
プロフィール

SurgeonX

Author:SurgeonX
Surgeon X

facebook
twitter
surgeon_Xをフォローしましょう
最新記事
クリックThanks!!
最新コメント
リンク
カテゴリ
月別アーカイブ
RSSリンクの表示
検索フォーム
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。