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人工心臓と心臓移植に関わるちょっといい話

「The New York Times」by DENISE GRADY Published August 9, 2010

ニューヨークタイムスの記事より

実話だそうである。(ブログ:「supersurgeon 外科医の創り方」より参照)

筆者訳:

とある日、ヴォルプ氏が妻とショッピングをしている時の出来事である。
彼の生命を維持している「補助人工心臓」が、突然「バッテリー残量15分」を警告するアラーム音を発し始めた。

67歳、白髪のヴォルプ氏は、いつも必ず予備のバッテリーを入れたバッグを積んでいるはずの車内を見渡した。
しかしそれはそこになかった。
ヴォルプ氏の脳裏に、自宅の玄関先に置き忘れたバッグが瞬時に浮かんだ。
しかし自宅はそこから1時間半はかかる。
ヴォルプ氏は呆然と駐車場に立ちすくみ、そしてアラーム音は鳴り続けた。

「私はパニックに陥った」ヴォルプ氏はそう話す。

ヴォルプ氏は全米に数千人はいる、「補助人工心臓」(以下「ポンプ」)を埋め込まれた心不全患者の一人である。
元副大統領のチェイニー氏もその一人である。このポンプは心臓移植を受けるまで、その人の命を守る。
時に、ポンプをつけたまま、天寿を全うする人もいる。

ヴォルプ氏は退職した地下鉄誘導員であった。過去に2回心臓発作を起こし、2回のバイパス手術を受けている。
その後、2009年10月にニューヨークPresbyterian/コロンビア病院(以下コロンビア病院)でDr.Nakaの手による、ポンプの植え込み手術を受けた。
ポンプは自分の心臓の近くに埋め込まれ、外部装置に繋がる電気コードが脇腹から体外に出ている。
このコードはコントローラーである小型のコンピューターとバッテリーに繋がる。
患者さんは黒いメッシュのベストの中に、これらのコントローラーとバッテリーを携帯する。
ヴォルプ氏の人工心臓はThoratec社製HeartMate XVEというもので、2つのバッテリーで4時間保つといわれる。
ポンプの値段は7万~8万ドルであるが、通常保険扱いとなっている。


さて、話は戻る。
ヴォルプ氏のいる場所からコロンビア病院まではあまりに遠い。
妻が専門のクリニックに電話をすると、
専門ナースは911(日本の119番)をコールして近くの救急病院に行きなさいと言った。
ヴォルプ氏は知っていた。彼の心臓は弱ってはいたものの、ポンプが止まったからといってすぐには死ぬことはない。
しかし、ポンプが止まることによってポンプ内に血栓(血の塊)が出来てしまい、脳梗塞の危険に晒されてしまう。


ヴォルプ氏の心臓主治医であるDr.Donnaはコロンビア病院の心不全・移植プログラムの責任者であるが、
かつてこのような状況に病院が遭遇したことはない、と語っている。
しかし今後ポンプの使用がさらに拡がれば、このような事態は充分起こりえる、とも言う。
ほんの数年前まではコロンビア病院で10人しかいなかった(ポンプ植え込み患者)が、今では45人にまで増えている。
さらに、理由は不明だが、移植のドナーがここ最近減少傾向にあり、ポンプを要する患者が更に増えると言う。
通常年間80例から100例の心臓移植を行ってきたが、今年は60例程度にとどまる見込みである。
現在も150人の移植待機患者がいるそうである。
全米では3138人の待機患者がいて、昨年は2211人が心臓移植を受けている。
Thoratec社によると、過去約10年で6000個のXVE型補助人工心臓(=ポンプ)が使用され、
さらに新型である「HeartMateⅡ」はすでに5000個使用されたという。


ヴォルプ氏の話に戻る。
救急車はPoughkeepsieにある「Vassar Brothers メディカルセンター」にヴォルプ氏を搬送した。
しかしこの病院ではポンプ植え込み手術を行っていない。したがってバッテリーも常備していなかった。
そこの医師達は、コロンビア病院に指示を仰ぎ、血液の凝固を抑制する薬(へパリン)の投与を開始した。

この間に、コロンビア病院の専門ナース、クリスチンは、誰か近くにヴォルプ氏にバッテリーを届ける事が出来る、
別のポンプ植え込み患者がいないか探し始めた。
やがて彼女は、Poughkeepsie近くで働く61歳の建設作業員、ロバート・バンプ氏を探し当てた。
彼は6個の予備バッテリーをナップサックに所持していたのである。

「すぐに駆けつける」バンプ氏は言った。

一人の電気技術者が運転を買って出て、バンプ氏とともに小型トラックで走り出した。
彼は警察官の友人に事情を話し「止まらずに走る」と言った。
パトカーはトラックを先導し、Poughkeepsieまで通常30分のところを20分で走り抜いた。
病院に着くと、バンプ氏は救急治療室に大股で現れ、すぐに妻や医師たちに囲まれたヴォルプ氏を見つけた。

ヴォルプ氏のポンプのアラームは鳴り続けていた。

黒いメッシュベストを着たバンプ氏を見た医師は言った。
「やった!彼が持ってきた」

ヴォルプ氏は言った。
「大きな仲間が入ってくる。その服で仲間とわかった」
バンプ氏はバッテリーを取り出し「OK、もう大丈夫だ」と言った。
救急救命室には小さな拍手が沸き起こり、ヴォルプ氏は感謝し続けた。
ヴォルプ氏のポンプはどういうわけか15分を超えて1時間ほど保っていたが、
あと数分の寿命である事は明らかだった。


2人のポンプは異なる型であったが、たまたま同じバッテリーが使われていた。
もしバンプ氏が、彼の持つポンプの、より新しいバージョンのバッテリーを使用していたら、
ヴォルプ氏のポンプと互換性がなかった。


2010年7月24日、バンプ氏はおよそ1年に及ぶポンプ植え込み期間を経て、
晴れてロンビア病院で心臓移植手術を受ける事が出来た。
彼の妻は病院で、同じように州北部の田舎から心臓移植を受けに来たという患者の妻と立ち話をした。
バンプ氏の妻は、自分の夫が以前同じ地区で、他のポンプ患者にバッテリーを提供した逸話を伝えた。

「それは私の夫ですよ!」相手の女性は驚きの声を上げた。

なんと偶然にも、ヴォルプ氏も心臓移植を受けていたのである。


先週、2人は上機嫌で語った。
双方とも補助人工心臓(=ポンプ)のおかげで生きる事が出来た。しかしポンプから開放される事を懇願していた。
およそ1年間におよぶスポンジ入浴。2人ともシャワーを浴びる事を絶望視していた(※訳者注)
彼らが黒いメッシュベスト(ポンプのコントローラーとバッテリーが内装)を忘れる事はないであろう。
バンプ氏は見知らぬ人に、自分がもう爆弾を身にまとっていない事を知らせる必要があった。


先週の木曜日、病院の談話室から2人が退室する時のことである。
先に立ち上がったバンプ氏がヴォルプ氏に手を差し伸べた。

「いや、いいよ」
ヴォルプ氏は断った。
「もう十分助けてもらったから、ロバート」



翻訳:SurgeonX(管理人)

※植え込み型補助人工心臓は、体外にコントローラーとバッテリーをつなげる為に、
脇腹の辺りから直径1~1.5cm程の太い電気コードのような管が出ることになる。
したがって、この部位から感染を起こさないために、全身シャワーや入浴は禁じられ、
部分シャワーや、スポンジで体を洗うことになる。


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